「シン・エヴァ」に「エヴァンゲリオン」という作品の本質を垣間見た – 特撮的な要素の意味するもの

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「シンエヴァ」の映画の感想を書いた記事で、「シンエヴァ」には「エヴァ」という作品の根源が表現されていると書いたが、今回はその話をより掘り下げて解説する。

注意!内容に関するネタバレを含みます

マイナス宇宙で描かれた特撮セットが意味するもの

クライマックスに出てくるマイナス宇宙。

シンジの初号機とゲンドウの第13号機は、特撮セットのような第3新東京市で戦う。

マイナス宇宙とは、作中の説明では“人間の感覚では認知できず、そのためLCLによって知覚可能な形で形成される世界”ということだ。

また、ゲンドウがシンジに対して“おまえの記憶の世界”と言っていることから、シンジの記憶によって形成されていることが分かる。

第3新東京市が特撮セットのようになっていたのは、人の記憶の曖昧さのために必ずしも現実と一致しないことを表しているのかと思った。

しかしセット裏まで描写されたことでそうではないことに気付かされる。

そんな場所はシンジの記憶にはないはずだからだ。

仮にあったとしも、作品の中でこれまでにシンジと特撮セットの関連性を示す描写はなかったので、セット裏のシーンは唐突すぎる。

映画館で観ていたときは、マイナス宇宙は何でもありなんだということで、違和感を覚えながらもそのままスルーしていた。

なぜアニメの中で特撮のセット裏まで描く必要があったのか?

映画を見てから時間を置いてあらためて考えてみると、あの特撮セットこそが「エヴァンゲリオン」という作品の根源を表しているのではないかと思うようになった。

「エヴァ」における特撮的な要素は、TV版の頃から指摘されていた。

庵野監督が特撮ファンであることは周知の事実であり、「エヴァ」における特撮的な要素は、過去の特撮作品に対するオマージュやリスペクトとして盛り込まれたもの。

エヴァと使徒の戦い、人間ドラマ、聖書の要素を盛り込んだストーリーがエヴァという作品の本質で、特撮的な要素はそれらを表現するための方法の一つだと思っていた。

しかし「シンエヴァ」を観て感じたのは、むしろその逆で、特撮的な要素こそがエヴァの本質だということだ。

特撮的な表現に対する偏執狂的なこだわり

岡田斗司夫ゼミの動画の解説で、「シンエヴァ」における特撮的な要素がいかにこだわりを持って表現されたのかが分かる。

特撮セットで表現された第3新東京市は「ウルトラマンA」のオマージュであるらしい。(動画17:40〜)

「ウルトラマンA」は予算が少なく特撮セットのビルを壊すことが出来なかった。

そのためAや超獣(「A」における怪獣)がビルに当たった時は、ビルがズレるに動いて壊れないようにしていたそうだ。

この建物がズレる様子が「シンエヴァ」でも再現されていた。

また初号機が吹っ飛ばされて背景にぶつかったとき、背景にシワがよることでこれが布あるいは幕に描いた絵だと分かる。

岡田氏によると、EDのクレジットに島倉二千六の名前があることから、おそらくこの背景の絵は島倉二千六によるものだろうとのこと(動画18:12〜)

島倉二千六という人のことは今まで知らなかったが、東宝の特撮映画の背景画で有名な人のようだ。

アニメの中で特撮の背景を描写するために、わざわざ東宝特撮映画の背景画家に描いてもらったようだ。

さらにセットが壊れたときにセットを持ち上げるための木のパレットが見えるが、そのパレットに“東宝”という焼印が押してあるらしい。(動画18:43〜)
※そんなところにまで気づく岡田斗司夫もすごいが…

庵野監督のこれほどまでの特撮的な表現へのこだわりは、オマージュやリスペクトというより、むしろ偏失狂的であると感じる。

なぜそこまで特撮的な表現にこだわるのか。

それは本人にも論理的に説明できない衝動のようなものではないだろうか。

そしてその衝動こそがエヴァを生み出した根源なのではないだろうか。

庵野秀明にとっての“特撮”

富野由悠季の“宇宙”に対する興味が「機動戦士ガンダム」における緻密な宇宙空間の描写を生み、宮崎駿の“戦闘機”への情熱が「紅の豚」や「風立ちぬ」のような作品を生み出したと言われている。

庵野監督にとっての“特撮作品”は、富野監督にとっての“宇宙”や宮崎監督にとっての“戦闘機”と同じものだったのだろう。

アニメで特撮的な表現をする。

なぜそれをしなければいけないのか言葉で説明できず、抑えることもできない欲求が庵野監督を突き動かし、「エヴァンゲリオン」という作品が生み出された。

アニメにおける特撮的な表現が「エヴァ」という作品の本質であり、エヴァと使徒の戦い、人間ドラマ、聖書の要素を盛り込んだストーリーは、あくまで視聴者を楽しませるための装飾のようなものにすぎない。

それが「シンエヴァ」を観て感じたことだ。

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