陰陽座『小袖の手』の歌詞考察 – 陰陽座版“意味が分かると怖い話”

陰陽座歌詞考察

陰陽座の9thアルバム『金剛九尾』収録の「小袖の手」。

一聴すると「もう会えない貴方にもう一度会いたい」という切ない内容の歌に聴こえるが、歌詞をよく読むと妖怪・小袖の手の恐ろしい想いを表現した作品であることが分かる。

小袖の手はなぜ“貴方”に会いたいのか。

この記事ではその真意を読み解いていく。

小袖の手とは

鳥山石燕著の妖怪画集『今昔百鬼拾遺』などの江戸時代の古書などにみられる怪異、あるいは妖怪のこと。

その姿は小袖の袖の部分から女性の幽霊の手が伸びたものとなっている。

『今昔百鬼拾遺』の解説では、身請けされず”籠の鳥”のまま亡くなった遊女の魂が、身請けの金を求めるあまり、死皮(死者の衣服を寺に収める風習)となった小袖から手を伸ばしている光景、とされている。

また、この小袖の持ち主の遊女が、生前にこれを着飾りたかったが願いが叶わず、その怨念によって小袖から手が伸びたもの、あるいは小袖の持ち主だった女の生への執着心が小袖に宿り妖怪化した付喪神の一種とする説もある。

妖怪を主題とした嘉永時代の狂歌本『狂歌百物語』においては「小袖手(こそでのて)」という表記で記載されており、一種の付喪神として紹介されている。

本来、死んだ人間の小袖は形見の品となったり、寺に納められて供養されるはずが、高級な小袖が売却され、成仏できない霊がその小袖に取り憑いたものと解釈されている。

歌詞解説

闇(やみ)も見(み)えぬ 無明(むみょう)の 淵(ふち)から

添(そ)うこともなく 散(ち)りぬる 此(こ)の身(み) 嘆(なげ)く

忘(わす)れられた 形見(かたみ)の 衣手(ころもで)

まほろばへと 戦慄(わなな)く 手房(たぶさ) 伸(の)ばす

出典: 小袖の手/作詞:瞬火

一筋の光さえも感じられないような暗闇の中で、愛しい人と添い遂げることなく命を落としたことを嘆く小袖の手。

手を伸ばすのは生前愛した男に向けてだろうか。

眼(め)を 凝(こ)らすには 時間(じかん)が 無(な)い故(から)

思(おも)い出(だ)して綻(はころ)ぶ 前(まえ)に

出典: 小袖の手/作詞:瞬火

綻ぶとは、自分の魂が消えてしまうことを布が綻びることに喩えているのだろうか。

闇の目を鳴らす程の時間も残されていないから、消えてしまう前に自分のことをもう一度思い出して欲しいと言っているのだろう。

あるいは自分が生きていたときのことを思い出そうとしているのかもしれない。

貴方(あなた)を 待(ま)っている

出典: 小袖の手/作詞:瞬火

小袖の手は闇の中から愛しい“貴方”へ呼びかける。

矯(た)めし瞳(ひとみ) 眇(すが)めつ 顰(ひそ)みて

然(そ)う 音(おと)も無(な)く 非太刀(ひだち)を 袈裟(けさ)に 降(お)ろす

鮮血(せんけつ)まで 愛(あい)して 月(つき)の光(ひかり)に 騙(だま)された儘(まま)で

噫(ああ) 「許(ゆる)せよ」と 呟(つぶや)く 聲(こえ)が 離(さか)る

出典: 小袖の手/作詞:瞬火

小袖の手が、自分が死んだ瞬間をフラッシュバックのように思い出すシーン。

非太刀とは相手の不意を突いて攻撃をすることなので、小袖の手は命を落とす瞬間まで自分が殺されるとは思っていなかったことが分かる。

“鮮血まで 愛して”という歌詞から、小袖の手の命を奪った相手は小袖の手が愛した男だったと推測できる。

哭(ね)を 絶(た)やすのは 終焉(おわり)が 無(な)い故(から)

さあ 連(つ)れ出(だ)して 衣桁(いこう)の 涅(くり)を

出典: 小袖の手/作詞:瞬火

「(自分だけで)悲しみを終わらせようとしてもキリがない」という小袖の手は、「(貴方の手で)暗闇から連れ出して欲しい」と男に呼びかける。

貴方(あなた)を 待(ま)っている 貴方(あなた)を 呼(よ)んでいる

出典: 小袖の手/作詞:瞬火

小袖の手が“貴方”を呼ぶのは、愛しい人にもう一度会って悲しみを終わらせたいからだった。

殺された恨みもなく、純粋にもう一度会いたいと言っているようだが、本当にそれだけなのだろうか?

ほら 差(さ)し伸(の)べて 其(そ)の手(て)を 良(よ)らし心(こころ)で 手向(たむ)けて

襟(えり)に 這(は)わせた 此(こ)の 手(て)で そっと 輪(わ)を描(か)いて

出典: 小袖の手/作詞:瞬火

襟に這わせた手で輪を描くと、首を締める形になる。

つまり男が寄り添ってくることがあれば、首を締めて殺そうとしているということだ。

小袖の手が男にもう一度会いたいと思っていたのは、男の命を奪うためだったということになる。

貴方(あなた)を 待(ま)っている 貴方(あなた)を 呼(よ)んでいる

闇(やみ)も見(み)えぬ 無明(むみょう)の 淵(ふち)から

添(そ)うこともなく 散(ち)りぬる 此(こ)の身(み) 嘆(なげ)く

忘(わす)れられた 形見(かたみ)の 衣手(ころもで)

貴方(あなた)だけを 此(こ)の手(て)で 探(さが)して

出典: 小袖の手/作詞:瞬火

“貴方”をこの手で探すのは、男を死に至らしめるためだ。

それは殺された恨みからか、あるいは愛しい人を自分と同じ存在にするためかは分からない。

しかし明確な殺意を持って探していることは間違いない。

軽く聴き流すと、「今でも貴方に会いたい」という内容に聴こえるが、歌詞を読み込みながら歌を聴くと、実は非常に恐ろしい内容の歌だということが分かる。

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