日本語の歌詞のロックで、個人的に現時点での最高到達点だと思っている作品が2つある。
一つは陰陽座の『邪魅の抱擁』、もう一つは同じく陰陽座の『人魚の檻』だ。
この記事では『邪魅の抱擁』と『人魚の檻』の歌詞で使われている技法について解説する。
『邪魅の抱擁』に使われている2つの技法
『邪魅の抱擁』の歌詞には大きな特徴が二つある。
一つは“文末以外の場所での押韻”だ。
『邪魅の抱擁』のAメロおよびBメロは、1番と2番で子音が同じ言葉を使うことで韻を踏み、歌詞全体に統一感を持たせている。
特にBメロの“黒とも 白とも”と“玄人も 素人も”は音で韻を踏んでいるだけで無く、それぞれが対比したものの並列になっていて、単に韻を踏むだけに留まらない表現を見せている。
『邪魅の抱擁』のもう一つの特徴は、女性ボーカルと男性ボーカルが“異なるメロディーと歌詞を同時に歌う”ことだ。
日本語は消音が行われないため英語などの言語に比べて歌詞にするのに不向きだと考えられているが、そんな日本語の欠点を逆手にとった、総ての音をはっきりと発音する日本語だからこそできる技法と言える。
男女ツインボーカルの進化形『人魚の檻』
『邪魅の抱擁』の“異なるメロディーと歌詞を同時に歌う”技法をさらに進化させたのが『人魚の檻』だ。
『邪魅の抱擁』では黒猫パートが瞬火パートに完全に含まれる形なのに対して、『人魚の檻』では黒猫パートと瞬火パートが少しずつズレていて、男女の意思のすれ違いという歌詞の内容を表現したものになっている。
さらにこれら2つの歌詞を相補的に足すことで、もう1つ歌詞が浮かび上がってくるというギミックも盛り込まれている。
男女の異なる視点から描かれた2つの歌詞を組み合わせることで、物語を総括する内容のもう一つの歌詞が現れるという非常に高度な技法となっており、日本語の表現に強いこだわりを持つ男女ツインボーカルの陰陽座ならではの表現と言える。
最後に
陰陽座の作品は言葉の使い方にこだわりを感じられるものが多いが、今回紹介した作品は言葉の使い方の巧みさにおいて他に類をみないものとなっている。
特に『人魚の檻』は、男女ツインボーカルの一つの集大成とも言える作品だ。
コメント